うちはサスケが里を出てからもうどれくらい経っただろうか。
一族の復興を願っていた彼はサクラ一人を残してどこかへと旅立った。
うちはの嫁として嫁いだはいいけれどいまだ嫁としての実感がないサクラの胸は不安でいっぱいで、毎日サスケのことを考えては恋しくなる。
旅立って間もない頃に比べたら多少落ち着いて暮らせるようにはなったがサスケのことを思う度に胸はきゅうと締め付けられるように傷んだ。
「サクラ!今日はどこへ行くんだい?」
「今日は部屋に飾るお花でも買おうかと思って!」
「そうかい!!花を飾るだけでも一気に華やかになるからね~!」
サクラが里を歩けば里の人々は代わる代わる声をかけてくれる。
両親の知人、知人の知人、よく知らない人に声をかけられることもあったが悪い気分はしなかった。
みな、サクラ自身のことを心配してくれているのが伝わってきたからだ。
こんなにも優しくしてくれる人達に囲まれて、自分は幸せ者だとサクラは改めて思う。だが。
「…皆優しいから口にしないだけで、きっと」
(彼はもう帰ってこないんじゃないかって―…)
サクラを気遣い優しい言葉をかけてくれる人々はたくさんいる。
だがその優しさが逆に辛いと感じることが最近増えてきているのをサクラ自身感じていた。
最初の1年は周りの言葉が励ましとなり、笑顔で毎日を乗り切ってきたが2年、3年と経つにつれてその笑顔に元気がなくなっていった。
周りの里の人々はそれでも変わらずに毎日優しく声を掛けてくれたが、だんだんと里の人々も思うようになっていたのだ。
サスケはもう帰ってこないのではないか、と。
「…ねえ、サスケ君。今どこにいるの…?」
サスケを恋しく思い、サスケと初めて二人きりで訪れた綺麗な夜空の見える丘でサクラは一人呟いた。
キラキラと光輝く星たちをサスケも見ているだろうか、そんなことを思いながらサクラは同じ夜空の下にいるサスケの無事を祈った。
そしてふと小さな一羽の鳥がサクラの真上をゆっくりと飛んでいるのに気づく。
「夜に飛ぶ鳥なんて珍しいわね、どうしたのかしら」
じっと見つめ続けること5分、鳥はゆっくりと降下してきたかと思えば足で掴んでいた小さな何かをサクラの足元に落として飛び去っていった。
それは小さな紙切れだった。けれど優しい手触りに良い香りのする薄桃色の和紙でどこか懐かしい気持ちになる。
サクラは拾い上げたそれをそっと開いた。
そこには、手書きの文字が書いてあった。
その文字は、紛れもなくサクラが恋しくて恋しくてたまらない人物の文字で、サクラは思わず涙をこぼす。
「サスケ君の、文字…あ、はは、寂しがってるの…バレちゃったかな…っ」
サスケが旅立って初めての文書。
あまり長い文章ではないがそれがサスケらしいとサクラは泣きながら思う。
『サクラも同じ夜空を見ているんだろうな。
ちゃんと俺とお前は繋がっている。
大丈夫だ、一人じゃない。
もう少し我慢してくれるか?
きっとお前の下へ帰るから』
同じ夜空の下でサスケとサクラは生きている、決して一人じゃない。
その言葉がサクラの胸にしっかりと響き、寂しさはもうどこにも感じなかった。
サクラがサスケのことを思うようにサスケは今もどこかでサクラを思っているのだ。
「うん…私達ちゃんと繋がってる。だから大丈夫だよね、サスケ君」
溢れ出した涙はいつの間にかどこかへ消えて、サクラの顔に笑顔が戻っていた。
いつかきっと帰ってくる愛しい彼を思いながらこれまで以上に笑顔で毎日を過ごそうとサクラは誓った。
(ずっと待ってるからね、私の大好きな旦那さん!)
時鳥の落し文
笹野ユキ