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夏の宵

 

 

 

 

 

 

鮮やかな花火が空に打ちあがる。

 

なんとなくつかめそうな気がして、手を伸ばした。

 

握り締めた手には何の感触も無い。

 

――――――――無かったはずなのに。

 

 

「は?」

 

 

開いた手から光が溢れ出した。

 

 

 

ゴンッ!

 

自分の頭が床に当たった音で、サクラは我に帰った。

一瞬気を失ってしまったらしい。

くらくらする頭を振りながら起き上がると、見覚えのある女の子の部屋が広がっていた。

というより。

 

 

「私の部屋・・・?」

 

 

下忍時代のころのサクラの部屋にそっくりだ。

さっきまで一人用アパートの窓辺にいたはずなのに。

 

窓から外をうかがうと、変わらず花火が打ちあがっている。

光があふれ出したはずの手を見ても何の異変も無い。

 

全く状況がつかめないまま、部屋を出る。

ドアを開けた直後、

 

 

「お母さん!髪、これで良いかな?」

 

「可愛いわよ!」

 

少女と、女性の声が聞こえた。

 

「サスケくんも可愛いって思うわよ」

 

「え!?ほんと!じゃ、行ってくるね!」

 

 

サクラの鼻先を桜色の髪をした少女が駆け抜けていった。

はっとしてすぐ追いかける。

 

 

「いってきます!」

 

浴衣の袖を揺らし、下駄を鳴らしながら、少女は出て行く。

 

「待って!」

 

 

サクラが叫ぶも、全く聞こえていないようだ。

 

追い続けて数分。

突然少女が立ち止まり、道端のベンチに座った。

 

空を見上げたり、足をぶらぶらしたりしながら、少女は誰かを待っている。

 

 

「サクラちゃん!お待たせだってばよ」

 

 

幼いナルトが駆けてきた。

少女は頬を膨らませて、遅い! と文句を吐く。

 

サクラは気づいた。

これは昔、第七班で花火を見に行った日の情景であることに。

 

そして、後少しでサスケもくる。

 

旅に出てあえない彼を思い出した。

会いたい。

こみ上げる熱いものを必死で押さえ込んだ。

 

 

「あ!サスケじゃねーか!遅えよ!」

 

「お前は・・・こういうときに限って早すぎなんだよ」

 

「サスケ君・・・来てくれてうれしい・・・」

 

 

とても懐かしい幼い第七班のやりとり。

このときのサクラは、照れくさくてサスケの顔をよく見れなかった。

家に帰って後悔したっけ。

 

顔を伏せたままの幼いサクラに代わってサスケの表情を盗み見る。

サスケはサクラを見ながら、わずかに頬を赤くしている。

 

「かっ・・・かわいい!!」

 

思わず叫んでしまったが、三人には聞こえていない。

 

頭を撫でまわしたいかわいさだ。

と思ったときには、彼に向って手を伸ばしていた。

 

だが手はサスケをすり抜けてしまった。

 

「さ!任務のせいで遅くなっちまったけど、行くってばよ!」

 

「ああ」

 

「どこから行く?」

 

 

がっくりと肩を落とすサクラに気づくことも無く、三人は歩き始めてしまう。

 

 

「あっ」

 

 

顔を上げ三人を追おうとした、瞬間。

 

 

「サクラか・・・?」

 

 

脳髄を貫く低い、声。

 

振り返ると、旅人姿のサスケが立っていた。

 

 

「サスケ君っ!」

 

 

溢れ出す涙を拭う事すら忘れて、彼に手を伸ばす。

 

会いたかった。

 

サスケも口元に優しい笑みをを浮かべて、手を伸ばす。

 

二人の手が触れ合う瞬間、光が溢れ出し、サクラの意識が途絶えた。

 

 

ゴンッ!!

 

床に頭をぶつける音で。また意識を取り戻す。

辺りを見回すと、サクラが住んでいる、一人用のアパートに戻っている。

 

 

「何だったの・・・・?」

 

 

それは、夏の宵が魅せた幻。

互いが想い合えば、わずかな間だけ会えるというもの。

 

頬を伝う涙に気づいて、サクラ少し微笑んで囁いた。

 

 

「今度は―――――」

 

「「――――抱きしめたい」」

 

 

呟いたサスケは、わずかに残る手のぬくもりをを感じながら、空を見上げていた。

 

 

 

 

fin.

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