あなたと私の間にある繋がりの名を知ることが
この胸を満たす想いに名づけることが
こわくてたまりませんでした
あなたと私の間にあるものが
感じているこのあたたかみが
同じものだと思っていたくて
それを壊したくなくて、逃げた先にあったのは
虎が雨 めぐみ
それなりに険しい山々を越えたところにその里はあった。
見上げれば空一面を豊かな緑の葉が覆い、樹の枝枝から差し込む陽光が岩肌を照らしては朝露に濡れ、瑞々しく茂った苔が淡い光を灯している。
深く息を吸い込むと、山独特のひんやりとした空気が肺を満たしていく。
吹き抜ける風に乗って聴こえてくる鳥の歌声や水音に、なるほどこれなら神のようなものが居ても不思議ではないと納得する。
「ん――……ッ……はぁ」
いいてんきね…と思わず声に出しそうなほど心と肉体が弛緩する。
天に向かって伸びをしフと視線を落とせば、先に荷を降ろし準備を始めていたヤマトと思い切り目が合ってしまい、
その気まずさにサッと腕を下ろした。
「これっ…すっげーうめえ…!!なあこれ何だ。なんて言うんだ!?」
静寂を突き破るような感嘆が響き渡る。
丸い目をさらに丸くしたヤマトの視線を追うと、竹筒に似た器を片手に何やら懸命に飲みながらこちらに向かってくるナルトの姿を認めた。
その後を半歩遅れてサイの姿を確認する。
「ナルト!アンタね」
物見に来てんじゃないじゃないわよと眉を上げたところで数秒前の己を思い出し、振り上げた拳もそのままに口篭る。
そんなサクラを見てヤマトは苦笑すると軽く膝を叩いて腰を上げ、ナルトとサイの後を歩いてくる少女に向かって会釈をする。
慌ててヤマトに続いて挨拶をするサクラを見て、よかったらサクラさんもどうぞ喉を潤してくださいと向けられる
その人の良い笑みに背筋がキュッとなった。
「サクラちゃんも貰っとけよ。これってばすっげーうめえぞ」
「アンタは黙って」
一応注意はしたものの、暑いし何より疲れているしその飲み物はとても魅力的に感じられた。何よりしつこくない甘い香りがなんとも言えない。
表情の緩んだサクラを見てナルトがにや~と眼を細めた。
その表情に気付いたサクラが拳をギュッと握って見せると途端に体を縮こまらせ尻尾を巻く。
ナルトとサクラのやり取りに女性は眼差しを柔らかくしながら、しずしずとひとつ礼をした。
「みなさま今日は遠いところをありがとうございます。ご覧のとおり此処は緑と水ばかりの里ではありますが…」
「どうぞお気遣いなく。我々は物見で来たのではありませんからね」
申し訳なさそうに眉を下げる女性にすかさずヤマトが声を掛ける。
「おかげさまで天候にも恵まれまして今年こそはとみな意気込んでおります。無事終えられますよう…どうかお力添えよろしくおねがいいたします」
「おう、任せとけってばよ!」
「張り切りすぎてヘマしないといいですね」
サイ!おめーは一言余計なんだってばよとナルトが吠えた。
「ではそろそろ宿の方に…」
「ほらもうバカ言ってないで行くわよ!ッて…ぅわっ!!?」
「あ、このあたりは特に窪みが多いので注意してくださいね!」
なかなかに前途多難だった。