もしもな話。
オビトさんが木の葉に居る話。
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じわじわと煩いほどの蝉の鳴き声。
肌を焼くような太陽は、何よりも眩しくキラキラと輝いている。
山滴る
「あっちぃな……」
パタパタと襟元を動かしながら顔に風を送る。が、生温い風しか来ない事に、うちはオビトはウンザリしていた。
「だいたい、うちはの装束が黒いのが暑さを増加させてんだよ」
ぶつぶつと文句を言いながら、一度太陽を仰ぎ見れば、憎いほどに光を降り注いでいる。
パタパタと手のひらで扇ぎながら、のらりくらりと歩いていれば、突然冷たい何かが頭に掛けられ驚いた。
「っぶ!」
「あっはははは」
それはジョロロと音を立てながら、ホースから水が流れ落ちる音。
そのホースを手に持っていたのは、木の葉病院で医忍を務めている春野サクラという少女だった。
「サクラ……お前何やってくれてんだ」
「こんにちは、オビトさん」
「おう、こんにちは」
じとりと視線を向ければサクラはいまだに笑っている。
こんにちは。と言われたのでつい反射的にオビトも返事をした。
気が付けば、ここは木の葉病院入り口。
サクラは病院を彩る花壇に水をやっていたらしい。
「さっき、ナルトとサスケくんもここに来てびしょ濡れになりながら里中を走って行っちゃったんです」
「あー、あいつ等ならしそうだな」
サクラの言葉に思い出すのは、自分によく似た金髪の少年と、同じ一族の少年の姿。仲が良いに越したことは無い。
頭に程よく掛けられた水気を、オビトは首を振りながら水を切っていく。程よく濡れた頭が思いのほか心地良い。
「最近の暑さは異常ですよねー。こんなに暑いと嫌になっちゃいますよね」
「そうだなー」
花壇の花に水をやるサクラの横で、膝を折り何となく里の真っ青に続く空を眺めて視線を下げれば、太陽の光に輝く緑が生茂った山を見た。
瞼を閉じれば脳裏に浮かぶ清らかな水のせせらぎに太陽の光を緩やかに遮断する瑞々しい木々の葉。
そよそよと身体をすり抜ける風はなんとも心地良さそうだ。
「山か……」
「はい?」
鼻歌を歌いながら花に水をやり続けていたサクラは、オビトの突然の言葉にその手を止め、首を傾げた。
「今度山に行くか。きっと涼しくて気もちいいぞ」
「山ですか……」
サクラが視線を木の葉病院から見える真正面の、大きな山に向ければ、まるで誘うように輝いていた。
「そうですね……! こんど皆で山に行きましょう! お弁当作って」
「ピクニックかよ」
サクラの提案に、顔をクシャリとさせながらオビトは笑う。
「いいじゃいですか。こんな時にこそ息抜きですよ! カカシ先生やリンさんも誘って、それこそナルトやサスケくんも一緒に! いの達も一緒に誘ったら楽しそうー!」
「……そうだな、皆を誘って今度行くか!」
頭の中で次々と計画を立てるサクラにオビトは笑う。
視線を下げ、花壇の花たちを見れば輝きを放ち笑っているように見えた。
今日も木の葉は平和である。
うちサク祭り 2015.な吉
①山滴る(やましたたる)